大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)224号 判決

事実及び理由

審決取消事由の存否について判断する。

(原告主張の審決取消事由1について)

原告は、審決が本件考案と第二引用例のものとの対比において、「ガスライターのバーナーノズルの先端部に器具を取付けて噴出ガスの一部を外側方へ減速流出させ空気とより混合させて点火し、ノズル附近の噴消状態や風による吹消えを防止するとともに点火焔全体を完全燃焼させるものである点で両者は一致している。」としたのは誤りであるとし、第二引用例のものは吸気孔14、16から空気を吸込み、混合室12の内部でガスとの混合が行なわれるのに対し、本件考案においては、右吸気孔14、16や混合室12に相当するものはなく、ガスと空気の混合はノズル管1の上端に取付けたコイル2の間隙3においてはじめて行なわれるものであるのに審決はこの両者の違いを看過している旨主張する。

しかしながら、成立について争いのない甲第五号証(本件実用新案公報)によれば、本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲は、「ノズル管1の先端部に続いて耐熱鋼細線等のソレノイドコイル2を取付けたことを特徴とするガスライター用バーナーノズル。」というものであり、それによれば、本件考案は、ガスライター用バーナーノズルにおいてノズル管の先端部に続いて耐熱鋼細線等のソレノイドコイルが取付けてあることを要件とするのみであつて、ガスライターにおいてノズル管の先端部以外のいかなる箇所にも吸気孔がないことをもその要件とするものではないから、審決が本件考案と第二引用例との一致点を挙げるのに際し、原告主張のような両者の差異点に言及しなかつたとしても、それをもつて誤りとすることはできず、第二引用例(成立について争いのない甲第二号証)には、「空気とガスの混合体は、胴26の上端を離れると、膨張して部材22の網壁より流出してなお空気とガスの混合を促進する」(第三欄一四行目ないし一七行目、訳文第七頁一四行目ないし一七行目)、「部材22を設けることにより、点火を容易にするとともにライターの炎の持続を向上する」(第三欄二九行目ないし三一行目、訳文第八頁九、一〇行目)ことが記載されているから、第二引用例のものも、噴出ガスの一部を外側方へ減速流出させ空気とより混合させて点火させ、それにより、噴消状態や風による吹消えを防止するものであるとみることができ、審決のした本件考案と第二引用例のものとの対比における一致点の認定に誤りはない。原告の主張は理由がない。

(審決取消事由2について)

1  原告は、審決は本件考案のノズル管は従来周知のガスライター用ノズル管と認められるとしているが、その証拠はなく、公知例として挙げられている第二引用例のノズル管は本件考案の実施例に示されているような単なる管状のものではない旨主張する。

しかしながら、本件明細書(甲第五号証第一欄二五、六行目参照)には「1は普通のガスライターノズルより小孔のノズル管」との記載があり、これによれば、本件明細書自身本件考案のノズル管は普通のガスライターノズル管の孔よりも小さいが構造は周知のものであることを示しており、本件考案はノズル管を普通のガスライターよりも小さくすることによつて特別の効果を得ることを目的とするものであると認めることはできず、また、実用新案登録請求の範囲においても特にその径を限定しているわけでもないから、審決が本件考案のノズル管は従来周知のガスライター用ノズル管と認められるとした点に誤りはない。第二引用例のノズル管が本件考案の実施例に示されているような単なる管状のものでないことは、審決の右認定に影響を与えるものではない。原告の主張は理由がない。

2  原告は、第一引用例のものは噴出ガスをノズルの近くで空気との混合を増進させ、これによつて炎が吹消されるのを防止しようという技術ではなく、ノズルの先端でコイルの下部に位置するスリツトから空気を取入れて、コイルの内部で燃焼させて耐風性をはかり、コイルを白熱させてパイロツトライトにしようというものであるから、審決が第一引用例のものにつき、「ノズルの先端部に耐熱細線からなるソレノイドコイルを取付け、噴出ガスをノズルの近くで空気との混合を増進させて炎が吹消されたりするのを防止する技術手段を施している」と認定したのは誤りである旨主張し、第一引用例におけるコイルは、審決認定のように、スリツト9とともに空気と燃焼ガスの混合を一層促進させるようにするものではあるけれども、その混合の促進はコイルの内部に空気が取入れられてなされるにすぎず、本件考案におけるようにコイルの外側でガスと空気との混合が行なわれ、コイルの外側に炎が形成されるのと異なる旨主張する。

そこで考えるに、本件明細書中には、本件ガスライター用バーナーノズルにおいては、ガスの「周辺流は外側方に拡がるように流れてコイル2の間隙3から外側方へ漏出し空気と混合するので、これに点火した場合コイル2の周りで燃焼して根元焔4となる。」(甲第五号証第二欄五行目ないし八行目)と記載されていることは認められるが、右のように空気との混合ガスがコイルの周りで燃焼して根元焔となることは本件考案の構成要件を成すものではないから、仮に第一引用例のものにおいてはコイルの内部に空気が取入れられてそこで空気とガスとの混合の促進がなされるものとしても、空気とガスの混合がコイルの外側で行なわれるか内側で行なわれるかの差異を本件考案と第一引用例との違いとして主張することはできないものと言わなければならない。なお、その理由を詳述すれば次のとおりである。

本件明細書(甲第五号証第一欄一七行目ないし二五行目参照)中には、本件考案の目的として、「従来のガスライター用バーナーノズルは孔径とガスの噴出量との関係でノズル附近の焔は噴消されその焔の上部のみ燃焼する現象が生じ、いわゆる焔が飛ぶ欠点があつた。本件考案はこのような従来の欠点を除くため噴出ガスの一部をノズルの近くで外側方へ減速流出させて点火し根元焔となしてノズル附近の噴消状態を無くし点火焔全体を完全燃焼させるようにしたもの」であると記載されているが、いわゆる焔が飛ぶ欠点を持つていたのは従来のガスライター用バーナーノズルの全てではなくて、燃料室からノズル先端部に至るまでの間どこにも空気とガスを混合する機構を有しない、原告のいう「きわめて簡単な」ライター又はそのライターに取付けられたバーナーノズルの持つ欠点であつたにすぎないものと認められる。何故ならば、本件出願(昭和三八年九月四日)前公知であつたと認められる第二引用例(昭和三一年一月三一日特許の米国特許公報)のガスライターは、燃料室からノズル先端部に至る間に吸気孔14、16を有し、そこから空気を吸込み、吸気混合室12においてガスと空気との混合が行なわれ、ノズル先端から噴出するのはその混合ガスであるから、これに点火すれば、空気不足によつてはもはや焔が飛ぶことはない筈であり(第二引用例には、「本改良ライターに固有なものとされる他の特徴によれば、ライターの炎の基部は網スクリーンの基部の真近か、すなわち、バーナー出口の真近かにあるが、従来のガス燃料ライターでは、炎の基部はバーナー出口からかなりの距離をおいている」―甲第二号証第二欄一五行目ないし二〇行目、訳文第四頁一一行目ないし一六行目―として、第二引用例のライターにおいては焔が飛ぶことがない旨が示されており、吸気混合室12でガスと空気が混合されるが、ノズル先端に取付けられた部材22の箇所でなお一層空気とガスの混合が促進される旨が記載されている―第三欄一四行目ないし一七行目、訳文第七頁一四行目ないし一七行目)、したがつて、従来のガスライター用ノズルであつても、燃料室とノズル先端部との中間に空気とガスを混合する手段が設けられているライターに取付けられたものにおいては、空気不足によつては焔が飛ぶようなことはなかつたものというべきである。

右のようであるとすると、本件明細書中に、本件考案は焔が飛ぶという従来のガスライター用バーナーノズルの欠点を除くことを目的とするとの記載があるにかかわらず、本件考案の考案者が実際に考えていたのは、空気不足によつて焔が飛ぶという欠点を持つていた従来の、燃料室からノズル先端部に至る間にガスと空気とを混合する手段を有していないガスライター又はそのライターに取付けるバーナーノズルの改良であつたものと推測される。そうであれば、本件登録出願人はそのように限定されたライター又はライター用ノズルの考案について出願し、権利を得べきものであつたというべきである。しかるに、本件考案は何らそのような限定が付されていないから、例えば第二引用例のような、燃料室からノズル先端部に至る間においてガスと空気を混合する手段が設けられており、それだけで既に空気不足によつて焔が飛ぶようなおそれのないライターにおいて、そのノズルとして取付けられることをも包含することになる。そして、右のような場合においては、途中において空気、ガスの混合が行なわれ、ノズル先端附近においてはじめて混合されるのではないから、ノズル先端附近で行なわれる空気、ガスの混合は、前に行なわれた混合を補うものであるか、又はこれを促進するにすぎないものというべきである。

以上述べたところを要約すると、結局本件考案は、ノズルを使用すべきライターの種類を限定していないから、このノズルを使用することによつて、はじめてコイルの附近で空気、ガスの混合が行なわれる場合も、既に行なわれた空気、ガスの混合を補い、これを促進することになるような場合のものも、これを含んでいるもの、すなわち、本件考案は、ソレノイドコイルをノズル管の先端部に続いて取付けることによつて、補助的であろうが、主としてであろうが、ガスと空気との混合をソレノイドコイル附近、すなわちノズル先端部附近において行なわせるようなガスライター用バーナーノズルに係るものにすぎないと解釈すべきである。

ところで、第一引用例のものも、ノズルの先端部に続いてコイルが取付けられ、このコイル附近すなわちノズル先端部附近においてガスと空気の混合が行なわれる―コイルの開口12は、空気とガスを混合する手段となることが記載されている(甲第一号証第一頁右欄五五行目ないし第二頁左欄一行目、訳文第五頁一九、二〇行目)―ものであるから、コイルを取付けることによつてノズルの先端部附近でガスと空気の混合が行なわれるようになるという点で本件考案と第一引用例のものとは何ら異なるところはない。

右のとおりであるから、審決が第一引用例につき、「ノズルの先端部に耐熱細線からなるソレノイドコイルを取付け、噴出ガスをノズルの近くで空気との混合を増進させて炎が吹消されたりするのを防止する技術手段を施している」と認定したことに誤りはない(第一引用例には「燃焼を保持するのに必要な量の空気をスリツトあるいは開口9が取入れるので必ずしもコイルを使用する必要はない」と記載されていることが認められるが、その第4図にはコイル取付部によつてスリツトあるいは開口9が全く塞がれているものが示されており、この状態ではスリツトあるいは開口9はガスと空気を混合する手段としては全く機能せず、コイルが取外されてはじめて機能するものと認められるので、この場合の右「燃焼を保持するのに必要な量の空気をスリツトあるいは開口9が取入れるので必ずしもコイルを使用する必要はない」とは、コイルを取去つた場合にはじめてスリツトあるいは開口9が空気取入手段として機能することになるが、この場合でも燃焼保持に必要な空気の量はスリツトあるいは開口9が取入れるから、コイルは取外しても差支えないことを示したに止まるものと解すべきであり、コイルが取付けられた状態では、本件考案におけるノズルと同じくもつぱらコイルの隙間において、その附近で空気とガスの混合が行なわれるものと認められる。)。原告の主張は理由がない。

3  原告は、本件考案はガスライター用バーナーノズルに関するものであるのに対し、第一引用例のものはガスレンジ等ガス器具のパイロツトバーナーに関するものであつて、物品自体が異なるのに、審決が両者は同一の技術分野に属するとしたのは誤りであると主張し、ガスライターにおいては混合ガスの生成と火花の発生とが調和していなければならないが、第一引用例のものは、口火として常時一定量のガスをノズルから流出させて継続的に燃焼させているものであるから、点火の難易は問題にならず、本件考案と第一引用例のものとは、解決すべき技術上の課題が異なるばかりでなく、解決手段も異なると主張する。

しかしながら、ガスライター用バーナーノズルもパイロツトバーナー用ノズルもともにその先端からガスを噴出させて点火させる器具である点で変りはなく、両者は成立について争いのない乙第三号証(国際特許分類表)の記載を俟つまでもなく、同一の技術分野に属するものと認められるし、また、本件考案は前示のようにガスライターに関するものではなくて、ガスライター用バーナーノズルに関するものであるから、ガスライターにおける混合ガスの生成と火花の発生の調和の必要性を第一引用例のガスレンジのそれと比較しても無意味である。原告の主張は理由がない。

4  原告は、審決は本件考案と第二引用例のものとの作用効果の相違を看過し、その評価を誤つたものであると主張する。

しかしながら、本件考案と第二引用例のものとは、その構成が同じではないから、両者の作用効果に差異があるのは当然であり、審決は本件考案と第二引用例との相違点を挙げ、その相違点につき第一引用例に記載された技術手段を第二引用例の本件考案と相違する点に代えて本件考案のように構成することは、当業者がきわめて容易に想到することができたものと判断したものであり、その判断に誤りはないから、原告の主張は理由がない。

右のとおりであつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の請求は失当である。よつてこれを棄却する。

〔編註〕本件考案の要旨は左のとおりである。

ノズル管1の先端部に続いて耐熱鋼細線等のソレノイドコイル2を取付けたことを特徴とするガスライター用バーナーノズル。

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